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第0055号 対数の方程式・不等式の落とし穴

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┃  数学マスターへの道〜少なく覚えてとことん使う〜        ┃
┃         第0055号 (2007/02/10)             ┃
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 高校で数学を教えている現役教師が、数学の勉強の仕方、問題の解き方、考
え方についてちょっとしたヒントを毎週お届けします。

 今日は東京の私立高校の多くで一般入試が行われました。かく言う私の勤務
校も本日入試でした。中学生のみなさん、お疲れ様でした。まだこの後も試験
のある人もいるかと思います。体調を崩さず、全力を出し切れることを祈って
います。

 大学の一般受験は長丁場ですので、体調に気をつけて、自分の力を出し切っ
て欲しいと思います。受験や勉強に関しては、諦めが悪いことが肝心です(笑)
大学によりますが、2月の後半や3月まで試験はあります。今この瞬間にでき
ることをやりましょう。受けた試験でできなかった問題があれば、そこを確認
して、次に活かすようにしましょう。できない所がスタート地点です!


 初めて読む方もいるかと思いますので、このメルマガでの記号の書き方につ
いての約束事を2、3書いておくことにします。


 ☆2乗、3乗などの表し方は、^2、^3とします。
 (例)xの2乗 ⇒ x^2

 ☆添え字は_1、_2といった形で書きます。
 (例)数列の初項、第2項などは ⇒ a_1、a_2
    対数の底a ⇒ log_a x



──Contents─────────────────────────────

 1.対数の方程式・不等式の落とし穴
 2.前回の練習問題の解答
 3.次号までの宿題(^^)

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  1.対数の方程式・不等式の落とし穴

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 前々号から対数の方程式の解き方をお送りしていますが、対数の方程式・不
等式で忘れてはいけないことがあります。それは、対数は「底と真数は正の場
合についてのみ考える」ということです。もっと簡単に言うと「底と真数は正
でなければならない」ということです。前にも書きましたが、対数の方程式・
不等式では真数が未知数になることが多いので、特に「真数は正でなければな
らない」という条件を「真数条件」と呼んでいます。


 これまでは真数条件をチェックしなくても大丈夫な問題を扱っていましたの
で、真数条件のことは書きませんでした。しかし、これからやや複雑な方程式
を扱っていこうとすると、避けて通ることはできませんので、今回説明するこ
とにしました。


 真数条件についても、最終的には覚えて、使えるようになってほしいことな
のですが、単なる丸暗記ではなく、内容を理解した上で覚えるようにしてほし
いと思います。ただ、「理解」と一口で言ってもそこにはレベルの違いがあり
ます。説明を聞いて「なるほど〜」と分かる「理解」や自分で説明できる「理
解」などなど。数学を専門にやっていこうというのでなければ、説明を聞いて
「なるほど!」と納得する程度の「理解」で十分なことが多いのです。今回の
真数条件も「ふ〜ん、なるほどねぇ」といった程度で構いませんから、「理解」
を目指してください。


 少し脇道にそれますが、「納得」せずに丸暗記して使っていくのと、一度で
も「なるほど、納得!」と思って覚えて使っていくのでは、気持ちの部分で大
きく違ってきます。どちらも「覚えて使う」ことなんだから、同じだろ?と思
われるかもしれませんが、数学以外の日常生活と比較してみれば分かります。
たとえば、わけも分からず「やれ」と命令されたことをただ行うのと、自分な
りに納得して行うのとではモチベーションが違いますよね?それと同じです。
ですから、一度納得したけどそのあと忘れてしまった、でも構わないのです!
一度「納得」したということを、(石井裕之氏風に言えば)潜在意識に落とし
込むのです。そうすることで「潜在意識」を味方につけて、数学に対する学習
のモチベーションを維持していくようにしましょう。


 さて本題に戻りますが、「真数条件」とは

 ┌─────────┐
 │ 真数は正である │
 └─────────┘

これだけです。


 では、なぜ正でなければならないのでしょうか?


 数学では、この「なぜ」を考えることが非常に重要です。「なぜ」を考える
ときに、その根拠となる事柄として何を選ぶか、を考えなければなりません。
公式なのか?定理なのか?あるいは定義まで戻って考えるのか?などです。


 この真数条件では、対数の定義と指数関数に関する条件の両方を考える必要
があります。対数の定義は、メルマガ第0041号で説明していますので、忘れた
方はこちらをご覧ください。

 ⇒ http://mathemaster.com/magback0041.htm

また、第0053号で説明した対数方程式の解き方1でも使いましたね。そちらを
見ていただいてもいいのですが、あちこち見るのは大変でしょうから、あらた
めて書いておきます。


 ┌───────────────────┐
 │ 対数の定義 log_a x = b ⇔ x = a^b │
 └───────────────────┘


 要は指数を用いて書かれた式を、「指数=」という「指数を求める計算式」
に直したのが対数です。上の式でいうと、「x=a^b」のbが指数ですから、その
式を「b=」に直して書いたものが「b=log_a x」というわけです。


 このとき、aを底というのですが、指数関数では底は正の数でのみ考えます。
なぜか?はい、また出てきましたね。「なぜ?」です。指数を使って書く式と
しては、別にaにあたる数が正でも負でも構いません。すなわち、

  (-3)^2

とか

  (-2)^7

といった式を考えることは別に問題ではないのです。では、なぜ底は正でなけ
ればならないのでしょうか?それは、指数で表された式を「関数」として考え
ようとしているところに理由があります。それも指数の部分を変数として考え
る「指数関数」の場合です。同じ指数を使って表された関数でも、「y = x^3」
のような関数では、xに負の数が入っても問題はありません。ところが、指数
を変数とした「y = a^x」という関数では、aが負の数だと問題が生じてしまい
ます。


 たとえば、

  y = (-2)^x …(*)

という関数を考えたとしましょう。xは変数ですからいろいろな値を代入する
ことを考えます。そのとき、整数を代入する分には問題は起きません。しかし
指数関数では指数の拡張を行って、指数として整数以外の有理数や無理数まで
考えられるようになっています。(そのあたりの説明はまだしていませんが…)
たとえば1/2乗というのは、√と同じことです。ここでも、「なぜ?」という
疑問が湧いてくるとは思うのですが、残念ながらスペースの問題と本題から離
れすぎてしまうので、それをここで説明することは避けさせていただきます。
(でも、すかさず「なぜ?」と思った方は、「なぜ?」のセンスが身につきつ
つあると思ってください♪)


 で、戻って(*)の関数ですが、仮にxの値が1/2だったとしましょう。そう
するとyの値は (-2)^(1/2) となり、これは √-2 を意味します。はい、そう
ですね。実数の範囲ではルートの中がマイナスではダメです!2乗してマイナ
スになる数は、実数の範囲ではあり得ないからです。他にもxの値によっては
yの値が存在しない場合が出てきます。それも沢山です!そうすると、(*)
の関数は、xの値として考えられない数があちこちで大量発生してしまうので
す。これではさすがに関数として考えるのは無理があるだろう、ということで
泣く泣く「底は正の数だけとする」という制限を設けることにしたのです。


 さて、底が正の数に限定されると、正の数を何乗してもその結果は常に正で
す。したがって、「x = a^b」のxは常に正である、という真数条件にたどり着
くわけです。(長かった〜〜〜涙)


 ちなみに、上の対数の定義で使っている「⇔」という記号は、その両側に書
かれた内容を相互に行き来ができるということを表す記号です。つまり「⇔の
左側の内容」をいつでも「⇔の右側の内容」に書き換えることができて、その
逆もOKだよ、ということです。


 さらにおまけ。底に関しての話です。指数関数では底が1であっても、出て
くる値が1で変わらないというだけですから、何ら問題はありません。しかし、
対数関数ではそうはいきません。問題が生じてしまうのです。ですから、対数
関数では「底は1以外の正の数」としています。対数関数だと何が問題なの?
と思った方、その気持ちが大事です!ヒントを出しますので、自分で考えてみ
てください。(え?いぢわる?そんなことないですよ〜)ヒントは、底が1で
ある対数関数を考えてみることです。つまり「y = log_1 x」ですね。ここで
xにいろいろな数を代入してみて、yの値がどうなるかを考えてみてください。
そうすると、この関数はある特定のxのときにしかyの値が求まらないというこ
とが分かります。問題があるというよりは、それでは関数として扱うには無理
があるので、「底は1以外の正の数」という制限を設けるのです。


 数学の内容を理解する上で、具体的な例を挙げて考えてみる、ということは
とても大事なことです。しかし、時間数が限られている学校の授業では、そう
いった時間が十分に取れていないような気がします。具体例をたくさん見て、
感覚を養うことも数学をマスターしていく上で必要なことだと思います。そし
て、自分でも具体的な例を考えられるようになると、さらに数学が分かるよう
になることと思います。「具体例を考える」ということを頭の片隅にでも置い
ておいていただき、できたら数学の勉強をする中で自分なりにチャレンジして
みてもらえたら、と思います。


 対数の方程式や不等式の計算に慣れてくると、案外機械的に計算ができます
ので、あまり頭を使わなくてもできるようになります。そうすると、この真数
条件を忘れがちになってしまいます。そのため、教科書の解答などでは、まず
最初に真数条件のチェックを行っています。しかし、「何のために」とか「な
ぜ」といったことを十分理解しないで解答を見ると、方程式や不等式の変形の
前に、何だかよく分からない計算をしている、といった印象を持ち、場合によ
っては何をやっているのか分からなくなり、そのために、対数の方程式や不等
式の解き方そのものまで分からなくなってしまいます。


 このメルマガでは、方程式を解く最初のうちは、真数条件については求めら
れた解に対して、後からチェックをします。慣れてきたら、対数の方程式を解
き始めるときにチェックをするように変えたいと思います。いずれにしても、
真数条件のチェックは、対数の方程式や不等式の解き方に対する理解を妨げる
原因になったり、チェックをし忘れて解を間違えてしまう原因になったりと、
厄介なものです。その意味で真数条件は対数方程式・不等式の落とし穴とも言
うべき存在かな、と思います。落とし穴にはまらないように、気をつけてくだ
さい。




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  2.前回の練習問題の解答

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【練習問題】次の方程式を解いてください。(解き方2で解いてみましょう)

 (1) log_4 x = -2

 (2) log_7 (-3x + 1) = 2


 対数で表されていない定数aを

  a = a × 1

   = a × log_b b

と変形して解いていくんでしたね。bは他の対数の底と同じ値を選べばいいの
です。慣れてきたら、最初から

  a = a × log_b b

と変形してもOKです。


 前号では真数条件のチェックは行いませんでしたが、1.で真数条件につい
て説明しましたので、今回から真数条件についてもチェックしていくことにし
ましょう。


〔解答〕

 (1) log_4 x = -2 …(イ)

   log_4 x = -2 × 1

   log_4 x = -2 × log_4 4

   log_4 x = log_4 4^(-2)

   x = 4^(-2)

      1    1
   x = ── = ── …(ロ)
     4^2   16

   方程式(イ)の真数はxです。(ロ)からxの値は正ですから、(イ)の
   方程式の真数は正となりますので、OKです!

        1
   ∴ x = ──
       16
    ~~~~~~~~~~


 (2) log_7 (-3x + 1) = 2 …(ハ)─┐
                   │さっそく、省略パターンで(^^)
   log_7 (-3x + 1) = 2log_7 7  ←┘

   log_7 (-3x + 1) = log_7 7^2

   -3x + 1 = 7^2

   -3x + 1 = 49

   -3x = 48

   x = -16 …(ニ)

   方程式(ハ)の真数は -3x+1 です。(ニ)のxの値を -3x+1 に代入す
   ると49となり、これは正ですからOKです!

   ∴ x = -16
    ~~~~~~~~~

 前号の練習問題のように、真数の方程式を立てたときに、それが1次方程式
の場合には、真数条件は問題なくクリアされています。しかし、真数について
の方程式が2次以上の方程式になるような場合には、求めたxの値を代入した
ときに、真数条件を満たさない場合もありますので、チェックが必要になりま
す。それについては次号で扱いたいと思います。




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  3.次号までの宿題(^^)

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 次回から本格的に対数の方程式・不等式を扱っていきたいと思うのですが、
対数の基本公式を覚えていないとなかなかツライものがあります。そこで次回
までに、対数の基本性質・基本公式を覚えておいてください。全部で7つあり
ました。「もう完璧!」という方以外は、もう一度覚えなおしてくださいね。


 以下に7つの式を書いておきますので、何も見ないで7つ全部書けるように
練習しておいてください。これが次号までの宿題です(^^)


  log_a 1 = 0

  log_a a = 1

  log_a a^n = n

  log_a xy = log_a x + log_a y

      x
  log_a ── = log_a x - log_a y
      y

  log_a x^r = r・log_a x

        log_c b
  log_a b = ─────
        log_c a




─…─編集後記─…───…───…───…───…───…───…──

 気がついたらメルマガ創刊から1年が経ちました。週2回発行のはずなのに、
1年で54号。。。計算が合わないですね(汗)最初は、週1で始め、次第に
欲を出して増やしたのですが、秋頃ストップ。そして再スタートを切った次第
です。今は何とか、週2のペースを崩さないように頑張りたいと思っています
が、4月に入ったらちょっと不安ですね。とにかく今できることを精一杯やっ
ていきたいと思います。

─…───…───…───…───…───…───…───…───…─

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 現役高校数学教師が送る「数学マスターへの道」(週2回発行)
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