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第0027号 等比数列の和の公式


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┃  数学マスターへの道〜少なく覚えてとことん使う〜        ┃
┃         第0027号 (2006/05/15)             ┃
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 そろそろ中間試験の季節ですね。(イヤな季節だ…苦笑)



──Contents─────────────────────────────

 1.等比数列の和の公式
 2.文字式を見るときの気持ち(その3)

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  1.等比数列の和の公式

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 等差数列の和の公式は第23号で導きました。今回はそれと双璧をなす(ちょ
い大げさ?)等比数列の和の公式を導いてみます。


 私が初めてこの公式の証明を授業で習ったときには、何だかしっくりこなく
て、イマイチ掴めませんでした。もう一度自分で説明を辿りながら、何をやろ
うとしているのかを、分からないながらも考えながら計算していって、その仕
掛けに気づいたときには、背中がゾクゾクッとするような感動を覚えました。


 いつもは、具体的な数を使って考えますが、今回は最初から文字を使って考
えていくことにします。


 初項a、項比rの等比数列の和をSとします。まず、この等比数列を初項から
順に第n項まで書いていきます。

 等比数列の一般項についてはメルマガ第26号を参照


  a, ar, ar^2, ar^3, …, ar^(n-1)

この各項を足したものがSですから、

  S = a + ar + ar^2 + ar^3 + … + ar^(n-1) …(イ)

となります。この和を求めることが難しいのは、実は「…」の部分にワケがあ
るのです。たとえば、初項から第5項までの和を求める、というのであれば、
「…」などと書かずに、すべて書くことができます。すべて書くことができる
ということは、大変であるかはともかくとして、頭からすべて足すことが可能
だということです。


 ところが、初項から第n項までの和というのは、頭からすべて足すことが不
可能なんです。つまり、途中を「…」と省略せざるを得ないんですね。省略し
たくてしているのではなく、それ以外には書きようがないのです。ここが本質
的にネックとなる部分です。


 頭から順番に足していくことができない。ということは、途中が「…」で書
かれていても関係なくなるような、計算の方法が必要になるわけです。等差数
列の和の公式では、「同じ数が並ぶ」ということから「その個数を掛ける」こ
とで和を求めました。

 メルマガ第23号を参照


 さて、等比数列ではどういうアイディアでいくといいでしょうか?等差数列
と同じように、初項から末項までの順番を逆にして足したり引いたりしても、
残念ながらうまくいきません。(できれば、うまくいかないことを実際にやっ
てみて確かめてください)そこで今回は、(イ)の両辺にrを掛ける、という
ことをやってみます。これが実にうまいアイディアで、他の似たような問題に
も使えます。


   S = a + ar + ar^2 + ar^3 + … + ar^(n-1) …(イ)

  rS = r{ a + ar + ar^2 + ar^3 + … + ar^(n-1)}
    = ar + ar^2 + ar^3 + ar^4 + … + ar^n …(ロ)


 さあ、ここで注目は、
  (ロ)の式の初項 =(イ)の式の第2項
  (ロ)の式の第2項=(イ)の式の第3項
  (ロ)の式の第3項=(イ)の式の第4項
      :
      :
となっていることです!つまり、(ロ)の式を1項分横にずらして書いてやる
と、

   S = a + ar + ar^2 + ar^3 + ar^4 + … + ar^(n-1)     …(イ)
  rS =   ar + ar^2 + ar^3 + ar^4 + … + ar^(n-1) + ar^n …(ロ)

という具合に、縦に同じものが並びます。ここで、すごい事を思いつきました!
縦に同じものが並んでいるということは、(イ)の式から(ロ)の式を引くと
その部分が、全部0になる!ということです。


    S = a + ar + ar^2 + ar^3 + ar^4 + … + ar^(n-1)     …(イ)
 −)rS =   ar + ar^2 + ar^3 + ar^4 + … + ar^(n-1) + ar^n …(ロ)
  ─────────────────────────────
  S-rS = a + 0 + 0 + 0 + 0 + … + 0 - ar^n

 (1-r)S = a( 1 - r^n)


ここで、r≠1 であるとき、両辺を 1-r で割ると、

    a( 1 - r^n )
  S = ────── …(ハ)
      1 - r

という、等比数列の和の公式の出来上がりです。


 さて、上で「r≠1 であるとき」と書きましたが、なぜこの条件が必要かと
いう点に疑問を持つ人もいるかとおもいます。r=1 のときには 1-r が0になっ
てしまうので、0では割ったらマズイということなのですが、そもそも r=1 す
なわち公比が1という数列は、初項をaとすると、

  a, a, a, a, a, …

という具合に、aがずっと並ぶことになります。この初項から第n項までの和は
どうなるかと考えると、aをn個足すわけですから、anとすぐに分かります。だ
から、r=1 のときには、こんなしちめんどくさい公式など要らないのだ、と考
えた方が、気分的にはラクですね(笑)いずれにしても(ハ)の公式は、r=1
のときには使えない、ということを頭の片隅に置いておいてください。


 もう1つおまけですが、上の証明では、(イ)−(ロ)を計算しましたが、
これを逆にするとどうなるでしょうか?つまり、(ロ)−(イ)です。引き算
の順番が逆になっているだけですから、(ハ)の式でも引き算の順番を逆にす
ればOKです。

    a( r^n - 1 )
  S = ────── …(ニ)
      r - 1

これも、自分で実際に順番を逆にして引き算をして、確認してみてください。


 この(ハ)と(ニ)を合わせて、教科書などでは、等比数列の和の公式を次
のように書くことが多いのです。


    a( 1 - r^n )  a( r^n - 1 )
  S = ────── = ──────
      1 - r     r - 1


 よくある質問としては、

  どちらを使えばいいのですか?
  どっちでもいいんですか?

というものがありますが、どちらを使っても結果は同じになります。ですから、
どちらか片方を覚えておいて、常にそれを使うのもよし、気分によって変える
もよしです(笑)もし、何らかの選択の基準が欲しい、ということであれば、
公比rが1より小さいときには、分母が 1-r の式を、1より大きいときには、分
母が r-1 の方の式を使うようにするといいと思います。これは分母がマイナ
スになると面倒だから、そうならないように、というだけの話です。いずれに
してもどちらを使っても結果は同じですから、あまり神経質になる必要はあり
ません。


 等比数列の和を求めるときに使ったアイデアは、先にも書きましたように、
他の似たような問題にも有効です。したがって、これも公式だけを丸暗記する
のではなく、この公式を導く仕掛けを堪能してもらい、自分でいつでも導ける
さ!という安心感と自信、「確実に覚えた公式」、そして他の問題へも応用で
きる力を手に入れて欲しいと思います。




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  2.文字式を見るときの気持ち(その3)

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 「2次方程式 x^2+x-6=0 を解きなさい」という問題があるとします。もちろ
ん普通に考えて、左辺を因数分解して解いていくということで何ら問題はない
のですが、ちょっと違った見方をしてみます。


 「xについての方程式の解」とは、xに代入して等式が成り立つような値を指
します。ということは、どれが成り立つかな、と適当に数を代入してみて、う
まい具合に等式を満たす値が見つけられれば、それでも一応は解いたことにな
ります。通常はこのような解き方は、ロスが非常に多いのと、確実性に欠ける
ことから推奨はされません。


 ですが、敢えてそれをやってみようと思います。

  x=0 を代入
   左辺=0^2+0-6=-6
   -6≠0 なのでダメ

  x=1 を代入
   左辺=1^2+1-6=-4
   -4≠0 なのでダメ

もうこの辺りで、イヤになってきますよね(笑)2次方程式の解き方が分かっ
ていると尚更です。さて、ここで確認していただきたいのは、この作業は左辺
のxに数を代入し、求められた左辺の値が0と等しいかどうかを調べている、と
いうことです。


 左辺の値はxに代入する値によって変化しますよね?ということは、左辺だ
けを取り出してその値の変化を考えるということは、この左辺をxの「関数」
として見ているということに他なりません。


 ところが、数を代入した計算だけでは、この左辺の値の変化は分かりづらい
です。そこでグラフを使って視覚的に捉える、ということをやるわけですが、
問題は、その前に左辺を「関数」として見る、ということがなかなかできない
ということにあります。この場合であれば、左辺が2次式ですから、左辺を「2
次関数」として見てやるということになります。


 x^2+x-6=0 という方程式を解くということと、2次関数 y=x^2+x-6 のyの値
が0になるときのxの値を求めるということが同じであるという気持ちを持てる
ようになると、方程式や不等式に対する見方・考え方が広がってくるのです。
それに加えて、グラフという視覚的に捉えることができる強い味方が現れると、
さらに理解が深まっていくと言えます。ですが、この式を見るときの気持ち、
あるいは「式の見方」というのは、なかなか伝えづらく、感覚として掴みにく
いところでもあります。


 また、初めて習う人にとっては、なぜそのようなことを考えなければならな
いのか?という疑問も残るでしょう。実際、2次方程式ではそれほど必要性は
感じられません。私自身も、最初に習ったときには、なんでこんな面倒くさい
ことをやっているんだろう?と疑問に思いました。ただ、2次不等式や3次方程
式の応用、三角関数を含む方程式など複雑なものを考えるときに、やはりこの
見方ができると、理解が深まります。特に2次不等式については、現在の数学I
での扱い方では、2次式を2次関数として見るという見方ができていないと、理
解がかなり難しくなります。


 ケース・バイ・ケースで、文字を「ある特定の値を隠したもの」と見るか、
「いろいろな値を取り得る変数」と見るかを、自分の意思で選択し、その見方
に沿って問題に取り組めるようになって欲しいと思っています。




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