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第0023号 等差数列の和の公式


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┃  数学マスターへの道〜少なく覚えてとことん使う〜        ┃
┃         第0023号 (2006/04/24)             ┃
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 前号で、「sin3α、cos3αの両方を導いてみます」と書いておきながら、片
方しか導きませんでしたね。失礼しましたm(_ _)m 自分で導くことをやって
もらおうと、途中で方針変更をしたせいなのですが、文章を直すのを忘れてし
まいました(苦笑)



──Contents─────────────────────────────

 1.等差数列の和の公式
 2.Σの公式の使い方

───────────────────────────────────


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  1.等差数列の和の公式

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 Σの公式を導くときに、等差数列の和の公式を使いましたが、その説明をし
ていなかったので、ここいらでやってみようかと思います。


 そもそも、等差数列とは何ぞや?というと、隣との「差」が一定(等しい)
である数列のことです。たとえば、

 (1) 1, 2 , 3 , 4 , 5 , 6 , …
   │ ↑│ ↑│ ↑│ ↑│ ↑
   └─┘└─┘└─┘└─┘└─┘
    +1  +1  +1  +1  +1

 (2) 3, 5 , 7 , 9 , 11 , 13 , …
   │ ↑│ ↑│ ↑│ ↑│ ↑
   └─┘└─┘└─┘└─┘└─┘
    +2  +2  +2  +2  +2

 (3) 8, 5 , 2 , -1 , -4 , -7 , …
   │ ↑│ ↑│ ↑│ ↑│ ↑
   └─┘└─┘└─┘└─┘└─┘
    -3  -3  -3  -3  -3

というような数列です。(1)は普通に1,2,3,…と1から順に数が並んでいるので、
かえって等差数列とは気付きにくいかと思います。でも、隣との差が1で一定
なので、れっきとした等差数列です。なお「隣との差=右側の項−左側の項」
です。たとえば、4番目の項と3番目の項の差は、「4番目の項−3番目の項」で
求められます。


 (2)の数列について初項から第6項までの和を求めてみます。すなわち

  3 + 5 + 7 + 9 + 11 + 13

がいくつになるか、です。これを、頭から順番に足すのではなく、項の数が増
えても大丈夫な方法を考えます。まず、この和をSと置きます。

  S=3 + 5 + 7 + 9 + 11 + 13 …(イ)

ここで、どうしてそんなことを考えるの?というようなツッコミは無しにして
もらって(笑)、足し算の順番を逆にしたものを考えます。もちろん、順番を
逆にしただけですから、その和はSのままです。

  S=13 + 11 + 9 + 7 + 5 + 3 …(ロ)

さらに、突飛なことを考え、この(イ)と(ロ)の両辺を足します。で、もと
もと足し算でつながっている式を足すわけですから、どこから計算してもOK
ですよね?ということで、縦に並んでいるもの同士を先に足し合わせます。そ
うすると…


   S=3 + 5 + 7 + 9 + 11 + 13
 +)S=13 + 11 + 9 + 7 + 5 + 3
  ─────────────────
  2S=16 + 16 + 16 + 16 + 16 + 16


あら不思議(笑)、同じ数が並んでいます。16を6個足しているわけですから、
その和は掛け算で求められます。

  2S=16×6

     16×6
  ∴S=───=48
      2   ~~

という感じで、簡単に等差数列の和が求められました。


 さて、ここからが問題なのですが、簡単に計算できたのは、同じ数16の足し
算になったために「掛け算が使えた」からです。なぜ同じ数がうまい具合に並
んだのでしょうか?そして、これはどんな等差数列の場合にでも成り立つので
しょうか?


 もう一度(2)の数列の最初の6項とそれを逆に並べたものを書いてみます。

  3, 5 , 7 , 9 , 11 , 13 (最初の向き)
  │ ↑│ ↑│ ↑│ ↑│ ↑
  └─┘└─┘└─┘└─┘└─┘
   +2  +2  +2  +2  +2

  13, 11 , 9 , 7 , 5 , 3 (逆向き)
  │ ↑│ ↑│ ↑│ ↑│ ↑
  └─┘└─┘└─┘└─┘└─┘
   -2  -2  -2  -2  -2 ←逆向きにしたから2ずつ減っていく

 そうです!最初の数列では右に行くにしたがって2ずつ増えますが、逆向き
にした数列では右に行くにしたがって2ずつ減るのです。片方が2増えて、もう
一方が2減るわけですから、合計は変わらないのです!うまいですよね〜(^^)
したがって、等差数列である限り、これと同じコトが起きるわけですから、等
差数列の和を求めるときには、いつでもこの方式が使えるということです。


 大数学者ガウスが子供の頃、先生がサボるために1から100まで足しなさいと
いう問題を出したところ、この方法であっという間に答えを出してしまい、先
生を驚かせたという有名な話があります。この逸話を「本当かどうか疑わしい」
と見る人もいますが、いずれにしても、等差数列の特徴をうまく利用している
例として覚えておいて損はないと思います。


 と、いうことで、等差数列に関しては、その和を求めるのには次のように考
えればいいことが分かります。

   S=初項 + … + 末項 (最初に与えられた数列の和)
 +)S=末項 + … + 初項 (順番を逆にした数列の和)
  ────────────
  2S=(初+末)+ … +(初+末)
     └────┬─────┘
       項の数だけ足す

     (初+末)×項数
   S=────────
         2

 以上を踏まえた上で、文字を用いて等差数列の和の公式を導いてみましょう。
一定である隣との差は「公差」といい、通常dで表します。初項をa、末項をb、
項数をnとします。普通末項はLの小文字lを使うのですが(恐らくlastの頭文字)
数字の1(いち)と区別がつきにくいので、ここではbを使うことにします。


 等差数列は、次のように表せます。

  a , a+d , a+2d , a+3d , a+4d , … , b

これを逆向きにすると、今度はdずつ減るので、

  b , b-d , b-2d , b-3d , b-4d , … , a

となります。これらの和をSと置いて、足します。

   S = a + (a+d) + (a+2d) + (a+3d) + (a+4d) + … + b
 +)S = b + (b-d) + (b-2d) + (b-3d) + (b-4d) + … + a
  ─────────────────────────────
   2S =(a+b) + (a+b) + (a+b) + (a+b) + (a+b) + … + (a+b)
     └───────────┬─────────────┘
                項数n

     n(a+b)
   S = ─── …(ハ)
       2


 これで、等差数列の和の公式が導けました。等差数列の和の公式に関しては、
言葉で覚えるように、生徒には言っています。すなわち、

 「等差数列の和は、最初と終わりを足して項の数を掛けて半分にする」

といった感じです。あえて式で書くならば、初項a、公差dの等差数列の第n項
が a+(n-1)d であることより、初項から第n項までの和は

     初項  末項
     ↓   ↓
    n{a + a+(n-1)d}
  S = ────────
        2

    n{2a+(n-1)d}
   = ──────
       2

となります。ただ、私はこの公式を覚えるように言ったことは一度もありませ
ん。だって、見るからに美しくないですから!(笑)覚えにくいですしね…。
上の(ハ)の式を覚えておけば、あとは一般項の式を代入するだけですから、
その方がよほど実用的です。


 とある教科書では、「したがって次のことが成り立つ」と書いて、この式を
枠で囲んでいます。「覚えなさい」とか「覚えた方がいいですよ」とは書いて
ないんですよね。もちろん「覚えにくい」とか「一応こう書けるけど使いにく
いんですよね」などとも書いてはいません(笑)あくまでも、「結果」として
こうなりました、とだけ書いてあるのです。


 枠で囲んであるために、学習者は当然重要なことなんだろうと考え、覚えよ
うとすると思います。しかし、この公式は、確かに使えば便利だろうけど、覚
えにくい、使いにくい、美しくないと三拍子揃った(笑)代物なのです。つま
り、これに関しては覚える必要はないのです。私は生徒に「覚えるな」とまで
言っています。これは純真な高校生を惑わす悪い公式だ、と(笑)


 繰り返しますが、(ハ)の式を導いた過程を理解し、(ハ)をしっかりと覚
えることが大切なのです。




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  2.Σの公式の使い方

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 Σの公式の使い方だなんて、変な感じを受けるかもしれませんが、これが分
かっていないために、応用がきかないということもあるのです。今回は、Σk
の公式を例にとって説明します。他の場合でも同じですから、同様に考えるよ
うにしてください。


 まずΣkの公式を書きます。


 n    1
 Σk = ──n(n+1)
 k=1   2


 曲者は「n」です。この「n」が「n-1」になったり、時には「2n」になった
りしたときに、きちんと対処できるかどうかで、理解しているかどうかが分か
ります。


 きちんと理解するためには、教科書ではほとんど練習しない、次のような公
式の使い方の理解とその練習が必要になります。これさえやっておけば、面倒
くささは残っても、分からないということはなくなります。


 さて、その使い方とは、

 ┌─────┬──┐
 ○   1  ↓  ↓
 Σk = ──×○×(○+1) …(ニ)
 k=1   2

Σの上に乗っている数または式をnがあったところに代入する、というだけで
す。当たり前のように思いますよね?でも、これが意外と意識されていないの
です。それを意識するために、次の例題を見てください。


【例題1】
 10
 Σk を計算しなさい。
 k=1

【解答】

 (ニ)の式の○のトコロに10を当てはめて計算します。

 ┌─────┬──┐
 10   1  ↓  ↓
 Σk = ──×10×(10+1)
 k=1   2

   = 55
    ~~


 これができれば、次のような計算も同じようにできるはずです。


【例題2】
 n-1
 Σk を計算しなさい。
 k=1

【解答】

 例題1と同様に(ニ)の○のトコロにn-1を当てはめて計算します。

 ┌─────┬──┐
 n-1   1  ↓  ↓
 Σk = ── (n-1) (n-1+1)
 k=1   2  ~~~  ~~~

     1
   = ── (n-1)×n
     2

     1
   = ── n(n-1)
     2


【例題3】
 2n
 Σk を計算しなさい。
 k=1

【解答】

 これも同様です。(ニ)のトコロに2nを当てはめます。

 ┌─────┬─┐
 2n   1  ↓ ↓
 Σk = ──×2n (2n+1)
 k=1   2  ~~ ~~

   = n(2n+1)


 例題1〜3のいずれも、公式の○(本当はn)のトコロに、Σの上に乗って
いる数または式を当てはめて計算しています。公式ではnだったトコロに、n-1
や2nが書かれているので、あれれ?という感じで分からなくなってしまうので
す。Σの上が数値のときと同じようにやるんだ、ということさえ理解していれ
ば、それほど難しくはないのです。


 しかし、数値を代入して計算する問題を練習しないと、単に公式と同じ式を
使って計算するだけになってしまいますので、例題2や例題3のような問題に
なったときに、計算がきちんとできなくなってしまうのです。ですから、Σの
計算ができるようになるための第一歩は、数値での計算練習をすることなので
す。教科書・問題集もこのあたりの計算練習をじっくりとやるようにしてほし
いものです(T_T)


 次号では、問題を載せますので、計算練習をやってみてください。




─…─編集後記─…───…───…───…───…───…───…──

 私自身、高校生の時にはΣの公式の使い方がよく分かっていませんでした。
大学でΣの上がnやn-1ではない場合も出てきて混乱し、あれこれ考えて今回の
当たり前とも言える結論に到達しました。分かる人にとっては、当たり前のこ
となのでしょうが、今までの経験から、多くの高校生が同じような迷路に迷い
込んでいるように思います。出口は意外と簡単なところにあるのです。気がつ
けば大したことはないので、一刻も早く迷路から抜け出して欲しいと思います。

─…───…───…───…───…───…───…───…───…─

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