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第0013号 因数分解(その2)


☆━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
┃  数学マスターへの道〜少なく覚えてとことん使う〜        ┃
┃         第0013号 (2006/03/30)             ┃
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━☆

 高校で数学を教えている現役教師が、数学の勉強の仕方、見方、考え方につ
いて、ちょっとしたヒントを毎週月・木にお届けします。


 合言葉は、

  ☆少なく覚えて、とことん使う!
  ☆センスは身につくもの!

です!


──Contents─────────────────────────────

 1.たすきがけによる因数分解
 2.マイナス×マイナスはなぜプラス?

───────────────────────────────────


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

  1.たすきがけによる因数分解

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【たすきがけの公式】

 acx^2+(ad+bc)x+bd=(ax+b)(cx+d)


 「たすきがけ」は次のような手順でやっていきます。


  ○x^2+☆x+△
  │    └──────────────┐
  └─────┐             │
        ↓             ↓
 (イ)まず掛けて○になる2つの数の組、掛けて△になる2つの数の組を考え
   ます。ここでは、a×c=○、b×d=△とします。

 (ロ)このa、c、b、dを下のように並べて、対角線上のaとd、bとcを掛け合わ
   せて足します。
   a   b →bc ─┐
    \ /      │
     ×       │
    / \      │足す
   c   d →ad ─┤
  ───────── │
        ad+bc ←┘
        ~~~~~
 (ハ)こうして得られたad+bcがxの係数の☆と一致すればOK!一致しなけれ
   ば、また違う数の組を考えて、同じ作業を繰り返します。

 (ニ)ad+bcが☆と一致したら、今度は横に見て、aとb、cとdの組を作り、
    ax+b、cx+d
   という式を作ります。これを掛け合わせれば、因数分解の出来上がりで
   す。すなわち、
    ○x^2+☆x+△=(ax+b)(cx+d)
   となります。


以上が、「たすきがけ」の手順ですが、上の対角線上の数同士を掛けている部
分が、まるで「たすき」をかけているように見えるので、「たすきがけ」と呼
んでいるのです。ただ、今の高校生にとっては「たすき」は、せいぜい駅伝で
バトン代わりに使うもの、ぐらいにしか思っていないかもしれません。そうす
ると、これを何故「たすきがけ」と呼ぶのか分からないでしょうね(苦笑)


 実際にはいろいろなパターンがありますので、練習を繰り返してできるよう
になるものです。では、具体的な問題を見てみましょう。


(例題1) 3x^2+11x+6 を因数分解してください。
    │   └─────────────┐
    └──┐              │
       ↓              ↓
 まず、掛けて3になるのは、1と3ですね。掛けて6になるのは、1と6か2と3で
す。では、これらを「たすきがけ」してみましょう。


 x^2の係数の方は1と3の組しかありませんので、これで決まりです。定数の
項は1と6、2と3の組の2つが考えられますので、まずは1と6の組でやってみま
す。


【トライ1】
   1   1 →3  ─┐
    \ /      │
     ×       │
    / \      │足す
   3   6 →6  ─┤
  ───────── │
         9  ←┘
         ~~~ xの係数の11と違うので、【失敗!】


【トライ2】
   1   6 →18 ─┐
    \ /      │
     ×       │
    / \      │足す
   3   1 →1  ─┤
  ───────── │
         19 ←┘
         ~~~ xの係数の11と違うので、【失敗!】


 1と6の組ではうまくいかなかったので、次は2と3の組でやってみます。


【トライ3】
   1   2 →6  ─┐
    \ /      │
     ×       │
    / \      │足す
   3   3 →1  ─┤
  ───────── │
         7  ←┘
         ~~~ xの係数の11と違うので、【失敗!】


【トライ4】
   1   3 →9  ─┐
    \ /      │
     ×       │
    / \      │足す
   3   2 →2  ─┤
  ───────── │
         11 ←┘
         ~~~ xの係数の11と一致したので、【成功!】


 ようやく4度目のトライでxの係数の11になる組み合せが見つかりました!
こうやって見つけたものを、横に見て、

  1x+3、3x+2

の2つの式を作ります。おっと、1xの1は省略するのが普通ですね。よって、

  3x^2+11x+6=(x+3)(3x+2)
        ~~~~~~~~~~~
と因数分解できました。これで完了です!もちろん、左右の( )の順番を入れ
替えた

  3x^2+11x+6=(3x+2)(x+3)
        ~~~~~~~~~~~
でも正解です!


 だいぶ長々と書いてしまいましたが、教科書では普通、失敗した例は書きま
せん。参考書などでも、たぶん書いていないと思います。失敗を書くだけで、
だいぶスペースを使ってしまいますからね(笑)ただ、成功した例だけを書く
と、どうしてその組み合せがでてきたのかが分からないんですよね。実際には
正解を見つけ出すまでに、あれこれと試行錯誤を繰り返しているのに、それが
伝わらないんです。これは大きな欠点だと思うのですが、やはりその部分を教
員が補うということになるのでしょう。にもかかわらず、教員が教科書と同じ
説明しかしなかったらサイアクですよね(>_<)


 さて、試行錯誤を繰り返す必要があると書きましたが、やっぱりチェックす
る回数が減らせるならそれに越したことはないですよね。この回数を減らす、
ちょっとしたコツを紹介します。


 そのためには、因数分解の手順について説明しなければならないのですが、
ここでは、関係する事柄を1つだけ書いておきます。これは因数分解をしよう
と考えたときに、まず一番最初にチェックすべき事柄です。それは、

  共通因数があるかどうか?

です。何はともあれ、まずは共通因数を最初にチェックしてください。で、こ
の例題1では、、、

  文字は…x^2、x、xなし
  係数は…3、11、6

ですから、すべての項に共通の因数はありません。←ここが重要です!!


 例題1について「共通因数はない」、これを頭に入れた上で、もう一度【ト
ライ1】と【トライ3】を見てください。最終的には「たすきがけ」で並べた
数を横に見て式を作るということでしたよね?もし、これらが正解だとしたら
どうなるでしょうか?

【トライ1】x+1、3x+6
         ~~~~
【トライ3】x+2、3x+3
         ~~~~

いずれも右側の式で、3が共通因数となっています。元々の式で共通因数がな
かったのに、因数分解したら共通因数が出てくるなんておかしいですよね?だ
から、【トライ1】と【トライ3】は計算してみるまでもなく、違うと分かる
わけです!このようなチェックが事前にできるようになると、随分チェックす
る回数を減らすことができます。あとは、【トライ2】などは共通因数は出て
きませんが、すべての係数がプラスだということ、3×6=18を計算した時点でx
の係数の11を超えていること、の2つを考えるとこれも「あり得ない」ことが
分かります。とすると、【トライ4】以外には考えられないわけで、きっとこ
の組み合せだろうと当たりをつけてやってみると、これがうまくいったりする
わけです(笑)


 このように見通しが立てられるようになって、しかも最初にトライしたもの
が正解だったりすると、気持ちイイんですよね(笑)今回の例題1は最も簡単
なパターンですので、これぐらいは大丈夫!という人も多いかと思います。次
号では、違うパターンの例題2、例題3を説明したいと思います。最後に今日の
例題と同じパターンの練習問題をつけておきますので、やってみてください。
正解はこのメルマガの一番下に載せておきます。


【練習問題】次の式を因数分解してください。
 (1) 3x^2+10x+3
 (2) 2x^2+7x+6
 (3) 6x^2+13x+6
 (4) 4x^2+11x+6




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  2.マイナス×マイナスはなぜプラス?

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 ブログにも書いたのですが、3月27日発売のAERAの記事の中に、子どもがつ
まづくポイントということで、「マイナス×マイナスはなぜプラスか」を取り
上げています。これについて、何人かの先生の教え方が載っています。私だっ
たらどう教えるか、について書いていきます。


 今回は、整数×整数に限定します。


 まずは、正の整数×正の整数です。

  3×1=3

問題ないですよね?ここで、右側の数(通称「掛ける数」です)を1ずつ増や
すとどうなるでしょうか?

  3×1=3 ─┐
       │ +3
  3×2=6 ←┘
      ─┐
       │ +3
  3×3=9 ←┘
      ─┐
       │ +3
  3×4=12 ←┘

計算結果は(左側の数の)3ずつ増えていきます。これは、

  3×2=3+3   ←3×2と3を2つ足すのは同じ結果になる
  3×3=3+3+3  ←3×3と3を3つ足すのは同じ結果になる
  3×4=3+3+3+3 ←3×4と3を4つ足すのは同じ結果になる

という、掛け算の一番最初の考えに戻ると明らかだと思います。要するに掛け
る数が1増えるということは、1つ多く足すということと同じなわけですから。


 さて、今は掛ける数を1ずつ増やしていきましたが、逆に減らしていくとど
うなるでしょうか?

  3×4=12 ─┐
       │ -3
  3×3=9 ←┘
      ─┐
       │ -3
  3×2=6 ←┘
      ─┐
       │ -3
  3×1=3 ←┘

このように、今度は3ずつ減っていくことになります。これを、さらに続けた
としたら、掛ける数が1ずつさらに減るわけですから、

  3×1=3
  3×0=0
  3×(-1)=?
  3×(-2)=?
  3×(-3)=?

となっていくわけです。上の流れから考えて、正の数×負の数について、どう
「決めればいいか?」と考えると、最も自然なのは、同じように結果を3ずつ
減らしていって、

  3× 1 =3  ─┐
         │ -3
  3× 0 =0  ←┘
        ─┐
         │ -3
  3×(-1)=-3 ←┘
        ─┐
         │ -3
  3×(-2)=-6 ←┘
        ─┐
         │ -3
  3×(-3)=-9 ←┘

とするのが良さそうだということが分かります。そこで、正の数×負の数を次
のように決めます。

  2つの数の絶対値同士を掛けて、符号はマイナス …(イ)

絶対値とは、数直線上での原点からの距離のことですから、常に0以上の値と
なります。要するにプラスの値はそのまま、マイナスの値は符号だけプラスに
変える、と覚えてください。したがって

  3×(-5)

の結果は、

  3×5=15
  正の数×負の数だから符号はマイナス

ということから、

  3×(-5)=-15

となるわけです。


 では、負の数×正の数はどう考えればいいでしょうか?正の整数を掛けると
いうことは、上にも書いたように、同じ数をその分だけ足すことだ、と考えれ
ば、

  (-3)×1=-3
  (-3)×2=(-3)+(-3)=-6
  (-3)×3=(-3)+(-3)+(-3)=-9
  (-3)×4=(-3)+(-3)+(-3)+(-3)=-12

となりますので、こちらも(イ)と同じように決めて良さそうです。そして、こ
う決めることによって、掛け算の順番を入れ替えても結果は変わらないという、
交換法則も成り立つことになります。すなわち、

  3×(-5)=(-5)×3=-15

となるわけです。


 さあ、いよいよ問題の負の数×負の数を「どう決めるか」です。ただ、ここ
までくれば、最初と同じ方法で考えていけばいいんじゃないか?という見通し
が立ってきますよね?それでやっていくと、次のようになります。掛ける数を
1ずつ減らしていくと、今度は3ずつ増えていきますので、(-3ずつ減っていく
と考えれば、上と全く同じになります)

  (-3)× 2 =-6  ─┐
           │ +3 =-(-3)
  (-3)× 1 =-3  ←┘
          ─┐
           │ +3 =-(-3)
  (-3)× 0 =0   ←┘
          ─┐
           │ +3 =-(-3)
  (-3)×(-1)=+3  ←┘
        ~~  ─┐
           │ +3 =-(-3)
  (-3)×(-2)=+6  ←┘
        ~~  ─┐
           │ +3 =-(-3)
  (-3)×(-3)=+9  ←┘
        ~~
とするのが自然です。(あえて+の符号を残しておきました)このように考え
れば、マイナス×マイナスをプラスと決めるのが、他の事柄との関連から、最
も妥当だと言えると思います。この「他の事柄とつじつまが合うように」とい
うことは、数の拡張を行うときにとても重要な考え方となります。たとえば、
数学IIで学習する指数の拡張などは、ここでやっていることとほぼ同じことを
行って、指数を負の数にまで拡張していきます。つまり、同じアイデアや知識
を繰り返し使うという、このメルマガのモットーにつながるわけです。


 さらに、上でやっているような計算は、実は「数列」でも同じようなことを
するのです。また「規則性を見つける」という非常に重要なセンスも、ここで
磨かれていくと思います。「センスは生まれつきではなく、磨くもの」という
のが私の信条です。「センス」=「感覚」ですから!適切な方法で繰り返すこ
とにより、「感覚」は研ぎ澄まされていきます。つまり、いわゆる「センス」
が身についていくのです!


 とはいえ、上の説明は非常に面倒くさいように感じるかもしれません。これ
は、すべてを文にして説明したからこうなってしまったのです。実際に授業な
どで教える(教わる)ときには、式を順番に書いて、次はどうなる?次はどう
なる?と考えながら進みますので、一方的に教えられるよりも理解しやすいと
思います。何より、自分で作っていく(決めていく)という感覚が残りますの
で、これは手応えとして、とても大きなものとなります。


 私が見た中学の教科書では、速さ×時間=距離を用いて説明しているものが
2社、上に近い形で説明しているものが1社という感じでした。上に近い形で説
明している教科書は、不思議なことに、「×負の数」の場合と「×正の数」の
場合で、違う説明の仕方をしていました。これではかえって混乱するだけなの
ではないか、と思ってしまいます。それくらいだったら、速さなどを使っての
説明の方がまだマシだと思います。


 AERAに載っている方々の説明については、実際に買って読んでみてください。
いや、決して朝日新聞の回し者ではありませんよ(笑)立ち読みでもイイだな
んて言えないので。。。


 私がここで述べた方法は、後にも生きてくるアイデアであり、感覚的にも納
得しやすいものであり、そしてささやかではあっても自分で数学を作っていく
楽しさを感じられるものではないかな、と思っています。ちょっと大きく出過
ぎましたかね(笑)分かりやすい!分かりにくいぞ!!など、感想をお寄せい
ただけると大変ありがたく思います。




─…─編集後記─…───…───…───…───…───…───…──

 毎度、「また長くなってしまいました」と書いてきましたが、あきらめまし
た。ある程度の内容を書こうとすれば、どうしてもこれぐらいの長さにはなっ
てしまいます。ですから、じっくり、時間のあるときに読んでいただければ幸
いです。

 また、もう少し内容が増えてきて、まとめられるようになりましたら、再編
集してpdfファイルなどで配布できるようにしていきたいと考えています。

─…───…───…───…───…───…───…───…───…─

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 現役高校数学教師が送る「数学マスターへの道」(毎週月・水・金発行)
 発行システム:『まぐまぐ!』 http://www.mag2.com/
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【練習問題の解答】
 (1) (3x+1)(x+3)
 (2) (2x+3)(x+2)
 (3) (2x+3)(3x+2)
 (4) (4x+3)(x+2)



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