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第0011号 素因数分解と因数分解


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┃  数学マスターへの道〜少なく覚えてとことん使う〜        ┃
┃         第0011号 (2006/03/23)             ┃
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━☆

 高校で数学を教えている現役教師が、数学の勉強の仕方、見方、考え方につ
いて、ちょっとしたヒントを毎週月・木にお届けします。


 合言葉は、

  ☆少なく覚えて、とことん使う!
  ☆センスは身につくもの!

です!


──Contents─────────────────────────────

 1.素因数分解と因数分解
 2.無理数は無理な数?

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  1.素因数分解と因数分解

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 素因数分解は、昔は中学1年生で学習していましたが、現在の教育課程では、
中学3年生で学習することになっています。これは式の因数分解の前に素因数
分解を学習することで、素因数分解と因数分解の類似性を意識させようという
ことによります。


 まず素因数分解についてですが、素因数分解とは、2以上の自然数を素数の
積で表そうというものです。これは、自然数がどのようにして作られるか、と
いうことと関係があります。つまり、自然数を「何か基準となる数」の「和」
で表そうとすれば、その「基準となる数」は「1」です。それを繰り返し足し
ていくことですべての自然数を作り出すことができます。言い換えれば、自然
数を「和」によって作り出そうとするときには、「1」を「単位」としてそれ
をもとにすればよい、ということになります。これが自然数の始まりと言えま
す。

  2=1+1
  3=1+1+1
  4=1+1+1+1
   …

といった感じです。


 では、自然数を「積」によって表すにはどうすればよいでしょうか?「和」
のときと同じように、「1」を単位にしようと考えてみます。しかし、「1」
はいくら掛けても相手は変化しませんので、「1」を繰り返し掛けても、いつ
までたっても「1」のままです。そこでたとえば、「6」については、

  6=2×3

となります。2と3は

  2=2×1
  3=3×1

以外に自然数の積で表すことはできません。先程も書きましたように、「1」
はいくら掛けても変わりませんから、2や3はこれ以上自然数の積に分解でき
ないと言えます。「分解=より小さなものにバラす」というイメージを持って
もらえばいいと思います。こうして考えていきますと、たとえば12などは

  12=3×4

というように3と4の積に直すことができますが、4はまだ2×2というよう
に、より小さな自然数の積に直すことができます。すなわち、

  12=3×2×2
   =2^2×3 ←素数の小さい方から並べると見やすくなります

とすることができます。このように、自然数をより小さな自然数の積によって
表そうとしたとき、その「もと」になる数というものがあることが分かります。
この「もと」になる数は、もうそれ以上小さな自然数の積に分解することので
きない自然数なのですが、これがいわゆる「素数」というものです。ですから、
最も小さな素数は「1」ではなく「2」なのです。


 この素因数分解というのはちょうど、物質が何からできているのだろうか?
ということを考えるのと似ています。物質の素は何?と考えるのと同じように
「自然数」の「素」は何?と考えているのです。そして、これが累乗根やその
他の計算の場面でも使われることになるのです。


 さて、一方の因数分解ですが、自然数を素数の積で表すのが「素因数分解」
でした。それに対して、「式」をなるべく簡単な式の「積」で表そうとするの
が、「因数分解」です。


 よく、因数分解は「展開の逆」という説明がなされますが、これ自体は間違
いではありません。しかし、展開を学習した後で、たいていは展開を含む式の
計算の練習をすると思います。すなわち、

  (x+y)^2-5xy

といったような計算です。これは (x+y)^2 を「展開」して、さらに「同類項
の計算」をするというものです。「展開」はあくまでも、分配法則を使って、
かっこを外し、かっこを外した部分で同類項があれば、それをまとめて簡単に
するというものです。このような計算をすると、どの状態になったら因数分解
したといえるのかが分からなくなったりします。たとえば、

  x^2-xy-6y^2

という式を、

  x^2-xy-6y^2=(x+2y)(x-3y)

というように x+2y と x-3y の積に直しているので、これは因数分解です。で
すが、

  x^2-xy-6y^2=x(x-y)-6y^2

と前半部分だけxでくくったものは、全体を積で表しているわけではないので、
因数分解したとは言いません。部分的には x^2-xy を x(x-y) と因数分解して
いますが、-6y^2 が後ろについていますので、式全体を積で表したことにはな
りません。ですから、これは因数分解をしたとは言いません。


 展開と因数分解の関係についてもう少し見てみます。

      ┌──┬┐
  (x+y)^2=(x+y)(x+y)
       └─┴┘
      =x^2+xy+yx+y^2─┐
              │yxは順番を入れ替えてxyとできる
      =x^2+xy+xy+y^2←┘
        ~↓~~  同類項をまとめる
      =x^2+2xy+y^2

これが展開です。これを逆に x^2+2xy+y^2 と (x+y)^2 は等しいのだから、と
いうことで、

  x^2+2xy+y^2=(x+y)^2

とするのが、因数分解です。あえて、かなりくどい書き方をしましたが、これ
を見るだけでも、因数分解の方がかなり強引というか、不自然な考えで変形を
しているのが分かると思います。途中の計算が多いと大変、少ないとラク、と
いう印象があるかもしれませんが、そうとは限らないということも分かるかと
思います。


 「展開」はいざとなったら分配法則を使って計算すればいいのですから、何
とかなります。しかし、因数分解は展開の後、同類項をまとめたりしたことに
よって形が変わったものを、元に戻そうとするのですから、無理があるのは当
然です。


 数学の中でも「逆」の考えというのは、ムズカシイのです。足し算の「逆」
の引き算、掛け算の「逆」の割り算などやはり「逆」の方がムズカシイですよ
ね。


 したがって、乗法公式に対しての気構えとしては、「展開」の時には計算が
楽に、早くできる「おいしい公式」、「因数分解」の時には知らないとできな
い「覚えておかなければいけない公式」と思ってください。もちろん、因数分
解の時でも、公式を知らなくてもできますが、かなり大変です。そして、公式
は使いながら覚えるようにしてください。練習量が大事です。




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  2.無理数は無理な数?

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 有理数・無理数を表す英語は、

  有理数=rational number
  無理数=irrational number

です。rational に「理性的な」とか「合理的な」というような意味があるの
で、有「理」数という言葉を作ったのではないかと思います。ですが、もとも
とは、「比」を表す ratio が語源なのです。つまり、比で表せる数という意
味で、rational number と言っているのです。その否定が irrational number
ですから、比で表せない数という意味です。そして、これが有理数・無理数の
定義そのものなのです。つまり、

 有理数とは
  2つの自然数の比(分数)で表せる数

 無理数とは
  2つの自然数の比(分数)で表せない数

です。したがって、無理数とは「無理」な「数」ということではありません。
「無理」な「数」って何?と考えるとワケが分からなくなってしまいますよね。
もっとも、「無理数」とは、2つの自然数の比(分数)で表すことが「無理」
な「数」と覚えるのも1つの手だとは思いますが。できれば数学のトリビアと
して、上記のことを覚えておいてもらえたら嬉しいですね(笑)




─…─編集後記─…───…───…───…───…───…───…──

 今回は、意外と理解されていない「因数分解」について取り上げました。次
回は、具体的な問題を見ていきたいと思います。2次関数で必要になる「平方
完成」についても、うまく習得できていない人が多いので、「因数分解」の後
で、取り上げてみたいと思います。

─…───…───…───…───…───…───…───…───…─

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